筒井康隆『虚航船団』

虚航船団 (新潮文庫)

虚航船団 (新潮文庫)

 入院中に読んだ本②。こちらも購入日不明。平成4年8月の初版本だが、刊行当初に買った記憶はない。

 全3章で構成された本書は第1章でまず、ある船団のメンバーを紹介するのだが、これがなんと文房具なのである。しかも大半の乗員が何らかの精神的欠損を負っている。
 そして第2章でその文房具の船団が攻撃する惑星の歴史が語られるのだが、この惑星の住人が鼬。さらにその歴史が実際の世界史のパロディになっている。
 3章では文房具と鼬の争いを描いているのだが、ここでさらに虚航と現実が混在するおなじみの筒井ワールドが炸裂する。
 いかにも実験的な物語。


 以前(おそらく10年以上前。当時筒井は断筆騒ぎで渦中の人であった)筒井の公演を聴きに行ったのだが、そのときのテーマが「感情移入の方法」であった。ある外国の作家(名前を失念)が誰もいない部屋にあるものを細かく描写し、それに感情移入をさせるという試みをした、という話に対しなるほどものにも感情移入することが可能なのだということで文房具に感情移入させる話を書いたという内容の話をしていた。『虚航船団』の文房具に対して感情移入は可能であるか――答えは当然イエスだ。

 ……でも公演の話ってこんなんだったかなあ。これは私の記憶違いかも知れん。一応最後にそれだけ記す。