山田正紀『蜃気楼・13の殺人』

蜃気楼・13の殺人 (光文社文庫)

蜃気楼・13の殺人 (光文社文庫)

 2002年10月購入。3年近く放置。バブル経済真っ只中の1990年、東京でのサラリーマン生活に疲れきった久保寺健一は会社を辞め家族ともども田舎に移り住むことにした。移住先の栗谷村は村意識が強く閉鎖的でなかなかなじめないでいた健一だが、村おこしイベントのマラソン大会に参加して親睦を深めようとする。しかし、その途中でランナー13人が消え去るという事件が起きた。マラソンコースは途中に抜け道がが存在しない、いわば大密室であった。さらに翌日、消えたランナーの一人が木に突き刺さって死んでいるのが見つかる。これらの事件は150年前の古文書に書かれた事件とそっくりであった……

 ミステリで事件が起きる場所として田舎がよく用いられるが、そこに都会から移住して来た人物を主人公に据えることにより、都会―田舎の対比を鮮やかにさせている。しかも時代を都会的価値観が崩壊する直前のバブル絶頂期とするあたり、舞台設定は申し分がない。

 13人のランナーが消え去るところはまさに「蜃気楼」だが、この表題が示すところはもっと別にあるように思える。最終的に古文書通りに起きた事件の実行犯は明らかになるが、さらにその裏でうごめくさまざまな人物の意図の存在が現れる。それをふまえた場合、真犯人はいったい誰というべきか? この事件の背景を含めたもの――結局つかむことができなかった真相こそが「蜃気楼」なのであろう。