奈須きのこ『空の境界 下』

空の境界 下 (講談社ノベルス)

空の境界 下 (講談社ノベルス)

 ということで下巻も読了。上巻を読んだときに抱いた「新伝綺」というものに対する違和感はついに最後まで解消されることはなかった。前日に言及したように「本格」→「新本格」と違い「新伝綺」→「伝奇」が地続きでないと感じたのは結局この『空の境界』という物語が従来の「伝奇」でなく漫画やゲーム影響を色濃く受けているからではないか。とはいえ漫画やゲームのなかでも「伝奇小説」からインスパイアされたものもあるだろうし、『空の境界』そういったものから誕生したという言い方は成立すると思える。したがって「伝奇」→「伝奇的な漫画・ゲーム」→「新伝綺」という流れのもとでの理解が可能となる。これを本格ミステリで言い換えると「本格」→「新本格」→「(漫画・ゲームの影響の濃い)メフィストファウスト系」という流れに近い。それならば、私が「新伝綺」に抱いた違和感の正体とは、「メフィストファウスト系」といったいわゆる脱格系の本をあくまで本格ミステリとして読んだときに生ずるものと同様のもであるのだろう。

 『空の境界』がファウスト系として捉えられることは多々あるが、その理由のひとつとしていわゆるセカイ系の作品として成立している点からであろう。物語の展開は主人公両儀式黒桐幹也、二人の世界の中で終始し、外へと展開していくことはほとんどない。私は伝奇小説の魅力のひとつに風呂敷を広げ続けること、すなわち世界が広がっていくことにあると思っている。伝奇小説に未完の作品が多いのはこの構造の元に成り立っているところもあると思う。そういったところの認識の食い違いからどうもこの作品を純粋に「新しい伝奇小説」として捉えることができなかった。