辻真先『天使の殺人 完全版』

天使の殺人[完全版] (創元推理文庫)

天使の殺人[完全版] (創元推理文庫)

 2002年2月購入。3年半の放置。大劇魔団は推理劇の公演を間近に控えていた。主役の北風みねこ役はまだ決まらない。そんな状況の中で届いた北風みねこ死亡の知らせ。劇中で北風みねこ役を演ずる候補は3人いたが、死んだのはこのうちの誰なのかはわからない。話は進み殺人の疑いが濃厚になるが、犯人も定かでない。そしてこの事件を解決するべく存在――探偵すら誰なのか不明である……といった趣向で繰り広げられる実験的なミステリ。

 作中の因果関係をひっくり返すことによって犯人や被害者がころころと変わってしまう、その手法自体が楽しめる。因果関係をひっくり返すということは、ミステリにおける謎解きという作業をひっくり返すことに他ならない。これを起こすのは作中では天使であるが、さらに言えば作者その人である。結局解決というものは天使=作者によって恣意的に決められてしまうものであるということか。某メフィスト賞作家の作品(壁本として有名であるがファンも多い。私は大好きである)を連想したが、その作品より20年近く前に書かれているということに驚きを禁じえない。