笠井潔『探偵小説論Ⅰ 氾濫の形式』

 1998年12月購入。7年近く放置orz 以前からちょこちょこと読んでいたのだがようやく読了。


 笠井潔といえば評論において「世界大戦による大量死→個人の死の価値の低下→個人の死の回復→個人の死の特権化としての密室」という理論を用いているが、その理論を元に日本探偵小説の歴史を総括しようというのが本書の内容。その大元の理屈がしっかりしているため、内容的に説得力が生じる。また、単純に日本推理小説史としても面白く読める。特に松本清張を社会派の嚆矢としての位置づけでなく戦前本格派のラストを飾る存在として語るところは目から鱗というか、なるほどと思わせるものがあった。さしずめ今で言うと清涼院流水ラノベ系ミステリのさきがけではなく、新本格ミステリの最終形であるといったところか。


 笠井潔の評論はインパクトがあり、説得力もあるため影響力も大きいと思う。10年近く前京極夏彦森博嗣が出てきたころ、この人が精力的に彼らを援護するような評論活動をしてきたことがいわゆるメフィスト系の発展に大きく寄与したはずだ。そんな彼がやがてエロゲ語りの人になってしまうとは誰が予想したろうか。メフィスト初期のころに本格にハマッた人間としては寂しいことだが、裏を返せば今の本格ミステリには評論として語る魅力が減ってきていて逆にラノベ系の作品に勢いが出てきており、その辺を敏感に嗅ぎ取っているのだろう。


 面白かったのでさっそくⅡを読みたいのだが、積読の山に埋もれて見当たらない……orz