佐藤友哉『子供たち怒る怒る怒る』

子供たち怒る怒る怒る

子供たち怒る怒る怒る

 ユヤタンの記念すべきハードカバーデビュー作。タイトル通り子供たちのやり場のない怒りをテーマに描いた短編6本を収録。


 彼の描き出す子供の特徴は自分達より上位に立つ存在に対する興味の希薄さ、それらを避け、閉じた世界を作り出そうとする排他性がある。「大洪水の小さな家」では洪水によって死んでしまった両親には無関心で、ただ妹の安否を気遣う。表題作「子供たち怒る怒る怒る」では殺人鬼の次の犠牲者を当てるという悪趣味なゲームを仲間内で繰り広げ、「リカちゃん人間」では自分に対して暴力を振るい、いじめる存在に対しては自分を人形にたとえる事でそれらの暴力をやり過ごそうとする。


 もう一つの特徴は、歪んだ価値観であろう。先にあげた「大洪水の小さな家」で主人公は自分の命、両親の命よりも妹の命が大切で、水中に浮かぶ食料――命をつなぎとめるべきもの――に対して無関係だと言い切ってしまう。「慾望」において行われるクラスメイトの大量虐殺に理由も要求もない。ただなんとなく他人の命を奪えるし、最終的に自分たちがどうなろうとも別段関係ないという。「子供たち怒る怒る怒る」で行われる殺人鬼当てゲーム。殺人鬼の行動をなぜか予知できる少女の登場によって子供たちはゲームに対して怖さを覚える。だが、ゲーム事態をやめることはせずにその少女をゲームから外そうとする。あまつさえ、予知した場所へ殺人鬼を見に行こうとする。などなど。


 この「執着」と「歪み」は以前の佐藤作品からも多く見受けられたが、本作でそれが綺麗にまとめられた感じ。それが従来の「ユヤタン」ファンには物足りないかもしれないが、「佐藤友哉」としては今後の飛躍に期待を持たせる1作になったのではないか。