瀬名秀明『デカルトの密室』
- 作者: 瀬名秀明
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/08/30
- メディア: 単行本
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本書は3部構成になっている。第1章では祐輔の監禁された部屋――いわゆる普通の密室を扱っているのだが、第2章以降は密室という本格ミステリのタームを哲学的領域まで高め、脳という密室に閉じ込められた人の意識を取り上げている。さらにはロボットに意識は宿るのか、という問題まで絡めつつ物語は展開していく。この非常に難解なテーマをエンターテインメントという土俵で取り上げ、きれいに着地も決めている。かなりの意欲作。あとは読み手の資質になるのだが、デカルトを知らなくても作品を楽しむうえではさほど問題ないとは思う。
柳広司『贋作『坊っちゃん』殺人事件』
- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/03/17
- メディア: 文庫
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漱石作品の続編ミステリといえば奥泉光の傑作『『吾輩は猫である』殺人事件』が思い浮かぶ。やはり漱石の代表作『夢十夜』をまで取り込み、あくまで本歌である漱石作品を基点に幻想性を高めることで作品を構成させていった奥泉に対し、柳作品では逆に漱石作品を現実方向へと引き寄せているのが特徴だ。そもそも漱石という人は近代的自我をテーマに作品をものすることが多く、彼の視点はあくまで内へと向けられていた。それを逆手にとるようにテキストからぎりぎり読み取れる当時の世情を膨らませ、作品内に当時の現実を取り込んでいく。手法としては非常にユニークで、かつ本歌との空気のミスマッチがかもし出す特有の雰囲気が絶妙で、なかなかの成功を収めているといえる。