柳広司『贋作『坊っちゃん』殺人事件』
- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2005/03/17
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (30件) を見る
漱石作品の続編ミステリといえば奥泉光の傑作『『吾輩は猫である』殺人事件』が思い浮かぶ。やはり漱石の代表作『夢十夜』をまで取り込み、あくまで本歌である漱石作品を基点に幻想性を高めることで作品を構成させていった奥泉に対し、柳作品では逆に漱石作品を現実方向へと引き寄せているのが特徴だ。そもそも漱石という人は近代的自我をテーマに作品をものすることが多く、彼の視点はあくまで内へと向けられていた。それを逆手にとるようにテキストからぎりぎり読み取れる当時の世情を膨らませ、作品内に当時の現実を取り込んでいく。手法としては非常にユニークで、かつ本歌との空気のミスマッチがかもし出す特有の雰囲気が絶妙で、なかなかの成功を収めているといえる。