辻村深月『太陽の坐る場所』

太陽の坐る場所

太陽の坐る場所

 2008年12月購入。1年9ヶ月の放置。高校時代を共に過ごした男女が同窓会で再会する話。五つに分けられた各章では、それぞれ別々の人物にスポットが当てられ、彼ら彼女らの過去や現在の様子、及びその時々の心情が詳細に語られる。本書以前の辻村作品においては少年少女の<今>が語られることが多いが、本書では<過去>という形で表現される。そこで記される青春時代の痛みはリアルタイムで綴った時とは別の、取り返しの付かない形となって表現される。さらには大人になった現在抱える悩みも加わり、彼らの人生の重みというものが感じられる形となっている。
 以下、ネタバレありのため、たたみます。
 辻村深月は作品中に「人名取り違え」トリックを仕掛けることが多い。本書もその例外ではなく、「キョウコ」という名前の人物二人を読者に誤認させようとしている。この二人のキョウコは名前を奪うものと奪われるものという関係にある。高校時代に人気者だった高間響子は同名で目立つ存在ではない友人の鈴原今日子に「リンちゃん」というあだ名を与え「キョウコ」を奪う。そうやって、このクラスに「キョウコ」と呼ばれるのは自分であることを誇示した。ストーリー終盤まで過去の「キョウコ」といえばこの高間響子を示していた。ところが、時を経て鈴原今日子は有名芸能人の「キョウコ」となり、現在では「キョウコ」といえば彼女を意味している。この仕掛けが判明したときに「リンちゃん」=「キョウコ」となり、鈴原今日子は過去に奪われたアイデンティティを取り戻すことになり、このことは、トリックの解明が劇中の演出に効果的に作用していることを意味する。作者にとってワンパターンの仕掛けではあるが、本書においてはこれ以上無いほど上手く用いられており、作者のこのパターンの作品では突出した仕上がりにあるといえる。