辻村深月『太陽の坐る場所』
- 作者: 辻村深月
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/12/15
- メディア: 単行本
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以下、ネタバレありのため、たたみます。
辻村深月は作品中に「人名取り違え」トリックを仕掛けることが多い。本書もその例外ではなく、「キョウコ」という名前の人物二人を読者に誤認させようとしている。この二人のキョウコは名前を奪うものと奪われるものという関係にある。高校時代に人気者だった高間響子は同名で目立つ存在ではない友人の鈴原今日子に「リンちゃん」というあだ名を与え「キョウコ」を奪う。そうやって、このクラスに「キョウコ」と呼ばれるのは自分であることを誇示した。ストーリー終盤まで過去の「キョウコ」といえばこの高間響子を示していた。ところが、時を経て鈴原今日子は有名芸能人の「キョウコ」となり、現在では「キョウコ」といえば彼女を意味している。この仕掛けが判明したときに「リンちゃん」=「キョウコ」となり、鈴原今日子は過去に奪われたアイデンティティを取り戻すことになり、このことは、トリックの解明が劇中の演出に効果的に作用していることを意味する。作者にとってワンパターンの仕掛けではあるが、本書においてはこれ以上無いほど上手く用いられており、作者のこのパターンの作品では突出した仕上がりにあるといえる。