門井慶喜『人形の部屋』

人形の部屋 (ミステリ・フロンティア)

人形の部屋 (ミステリ・フロンティア)

 2007年10月購入。2年11ヶ月の放置。仕事を辞めて主夫をしている男が探偵役を務めるミステリ。メインストーリーとなる父親と娘の関係を描いた短編三作と、それらの間に挿入される二作が収録されている。冒頭の表題作は元同僚から依頼された案件を片付ける、という形式で以降は主人公である八駒敬典の過去に絡む話で、最終話はその敬典の娘であるつばめが起こす事件を扱っている。提示された謎を推理する父親とそれを見守る娘というのが基本的な構図であるが、ストーリーが進むにつれ彼ら二人の関係そのものへと焦点が絞られていく。最終的には思春期にある娘の心情とそれに戸惑う父親の気持ち、という微妙なところへと踏み込んでいくのだが、こういった心の機微をミステリという形式に委託しすぎたがゆえにきっちりと語りすぎてしまった感が強い。作品それ自体は綺麗に収束しているのだが、彼らの心情を謎解きと同様に解体しすぎてしまったがゆえに、登場人物の心情を語る上での深みが失われているのだ。各短編のエピソードは面白く、特に売りにしていると思われるペダントリーの部分は重くならないように処理されており評価は高いのだが、いかんせん前述の部分でミステリという形式の弊害が顕著に現れてしまっており、残念だ。