野村美月『”文学少女”と月花を孕く水妖』

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)

 本シリーズは語り手である井上心葉が過去に負った傷、そしてそれに付随する人物との関わりが主幹となっている。しかし本書は番外編であるため、その主観からは若干外れる。メインとなるのは彼の所属する文芸部の先輩である”文学少女天野遠子の親友である姫倉麻貴にゆかりの事件である。遠子と一緒に姫倉家の別荘を訪れた心葉は過去に起きた殺人事件の話を聞くのだが、それと似た事態がまた繰り返されているようで……
 番外編とはいえミステリ的趣向に文学作品ネタ(今回は泉鏡花『夜叉ヶ池』)というシリーズのお約束を踏襲しており、安心して読み進めていくことができる。また、主要キャラでありながら常にスポットからは外れた位置にいたキャラを掘り下げることもでき、本書を経て作品世界の厚みもだいぶ増した。一方で今後の本編に対する布石らしき描写もあり、いろいろと興味深い一冊に仕上がっている。