森博嗣『ゾラ・一撃・さようなら』

ゾラ・一撃・さようなら

ゾラ・一撃・さようなら

 2007年8月購入。3年の放置。探偵の頸城悦夫に舞い込んできた依頼は、タレントで元政治家である法輪精治郎の所有する「天使の演習」を持ち主のもとへ取り返す、というものだった。「天使の演習」は本来は依頼主の母のものであるのだが、容易に返却してもらえるとは限らないようだ。そのうえ、法輪精治郎はゾラという殺し屋に命を狙われているという。頸城は依頼を引き受け、法輪に接触を図るのだが……
 「天使の演習」をめぐる駆け引きはあっさりとしている。一方で得体のしれない殺し屋ゾラに対する緊張は、終始つきまとう。ストーリーの主眼はこちらに向けられる。同時に主人公・頸城と女性陣の絡みも多く描かれる。特に依頼人の美女・志木真智子とのロマンスには筆をかなり費やされている。これらの要素が最終的に一個の終着点へと導かれていく、という筋立ては上手く整理されており、実に読みやすい。法輪邸で出会う盲目の詩人との会話や、主人公に迫る女性陣とのやりとりは、いかにもな森博嗣的オサレセンスが濃厚で、ファンにはたまらないであろう。