近藤史恵『二人道成寺』

二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ)

二人道成寺 (本格ミステリ・マスターズ)

 2004年3月購入。6年5ヶ月の放置。ストーリーは時間軸の異なる二つのパートが交互に描かれることにより展開していく。現在の「小菊」のパートは、歌舞伎の女形である小菊の師匠・瀬川菊花のもとに岩井芙蓉が稽古を頼みに来るところから始まる。それに先立って芙蓉のライバルである中村国蔵もまた、菊花の指導を受けていること、そして芙蓉の妻が火災による事故で昏睡状態に陥っていることが語られる。探偵・今泉文吾は中村国蔵の依頼でこの事故を調査することになる。
 しかし、今泉の調査の様子は描かれない。代わりにもう一方のパート「実」にて事故にいたるまで顛末が語られる。したがって、事件の真相に至るまでの過程で今泉の活躍は見られない。極端な話、本書は探偵役抜きでも成立する物語である。本格ミステリにおいて本来主役であるはずの探偵役が脇のままで終始するという異質の構成ではある。だが作者の描かんとするところはそこではなく、梨園における人間模様や彼ら彼女らの心の機微にこそある。そしてその部分はうまく描かれているといえる。