二階堂黎人・千澤のり子『レクイエム 私立探偵・桐山真紀子』

レクイエム 私立探偵・桐山真紀子 (講談社ノベルス)

レクイエム 私立探偵・桐山真紀子 (講談社ノベルス)

 2009年11月購入。9ヶ月の放置。「幼稚園バス爆破事件」の容疑者として逮捕された相沢光則が、裁判でいったん自供した犯行を一転して否認した。桐山真紀子は事件の真相を探るべく調査を開始するものの、相沢犯人説を覆す証拠はなかなか見いだせないのだった……
 ストーリーは捜査小説の体でもって進行していく。そのうちの前半は特に進展が見られず、ただ事件の現状をなぞらえるだけであり、動きは少ない。代わりに、桐山と面会した事件関係者の心情が描写される。子どもを失った保護者の心の中は丁寧に描かれているものの、徹底的に掘り下げているわけではない。こちらにもっと力を注げば、と思わないでもない。以下ややネタバレのため、たたみます。
 笠井潔の二度の世界大戦による大量死から、たった一つの個人の死を特権化する、といういわゆる「大量死論」の逆、すなわち数多くの犠牲者を出した事件は注目を集まるが、たった一人の犠牲者しか出さなかった事件は忘れ去られてしまう、といういうなれば「逆大量死論」というテーゼを用いた動機が本書に用いられている。この動機はいかにも本格ミステリ的発想で、ユニークなものだと思う。