笠井潔『魔』
- 作者: 笠井潔
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2003/09/25
- メディア: 単行本
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作者は評論も手掛けるだけあって、自身の評論で述べた理論に則った小説作品となっている。本書に関して言えば、巻末のエッセイにある「本格探偵小説を私立探偵小説として書く」ということだ。すなわち「リアリズム小説の形式で描かれる現代的な犯罪や社会病理に、古典的な探偵小説的トリックを埋め」こむことである。なるほど、本書は作者の目論見に則って書かれた小説だ、と感心できる作品である。これは裏面から見ると物語のダイナミズムに身を任せた小説からは最も遠い位置にある作品であるともいえる。したがって胸が熱くなる的な読後感を求める読者には向かないといえよう。極めて自己言及的な作品だ。