佐藤友哉『灰色のダイエットコカコーラ』

灰色のダイエットコカコーラ

灰色のダイエットコカコーラ

 2007年6月購入。3年1ヶ月の放置。全編にわたり厨二思考全開である。主人公の思想に影響を与えた人物は二人いる。北海道の田舎町で「覇王」と恐れられた祖父。孤高をきどり、いつか大掛かりな犯罪を起こしそれを以て自己主張をするんだと望む友人。彼ら二人が健在のうちは横にいて話しを聞くだけで自分も特別であると思い込めた。しかし祖父は死に、友人も自殺してしまう。かくして主人公は自分を特別と思い込める拠り所を失い迷走する。
 いかにも佐藤友哉らしい小説である。作者のファンであれば相当堪能できる類の作品といえよう。特に本書の主人公の設定が作者自身のプロフィールとかぶる部分があり、主人公=作者の分身として素直に読み進めれば、ファンには一層楽しめるはずだ。このへんの安直な設定は、おそらくこういったファンを意識しての戦略的な選択であろうと思われ、また、その戦略は成功しているといってよい。だが、この手法でファンの喝采を浴びることで作家としてどれだけの未来があるのか、その点は疑問である*1

*1:後に同じような手法で書かれた『1000の小説とバックベアード』ではこの点を作品として昇華しようとする向きは見られている。