米澤穂信『追想五断章』

追想五断章

追想五断章

 2009年8月購入。11ヶ月の放置。菅生芳光は父の急死によって大学を休学し、伯父の経営する古書店に厄介になっていた。やる気など皆無で、ただ漫然と店番をしていた芳光であったが、ある時客から本探しの依頼を受ける。北里可南子と名乗るその客は同人作家であった父の残した作品五作を見つけて欲しいという。報酬は一作につき、十万。復学のための学費を用立てたかった芳光は、その依頼に飛びつき、作品探しに乗り出すのだった。
 作中作として挿入されるこれら五作は、二者択一のリドルストーリーとなっており、それ自体楽しく読むことができ、かつ、物語に適度な緩急を与える役割を担っている。そしてそれらが作品のきもとなる部分にも密接に結びついているという構成もミステリ好きにしてみれば好印象となるであろう。
 なお、主人公である菅生芳光は一見、復学に前向きであるので米澤作品ではおなじみのモラトリアム型逃避系主人公とは真逆のベクトルの持ち主に見える。しかし、作中で取る彼の行動は「モラトリアム状態にある現状からの逃避」といった面も見受けられ、従来の米澤作品主人公の亜種であると言ってよい。この主人公の父が何も残さず死んでしまったことに対し、依頼人の父は娘に確たるものを残している、という対比が作品に与えた陰影は非常に味わい深い。