米澤穂信『追想五断章』
- 作者: 米澤穂信
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/08/26
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 86回
- この商品を含むブログ (122件) を見る
作中作として挿入されるこれら五作は、二者択一のリドルストーリーとなっており、それ自体楽しく読むことができ、かつ、物語に適度な緩急を与える役割を担っている。そしてそれらが作品のきもとなる部分にも密接に結びついているという構成もミステリ好きにしてみれば好印象となるであろう。
なお、主人公である菅生芳光は一見、復学に前向きであるので米澤作品ではおなじみのモラトリアム型逃避系主人公とは真逆のベクトルの持ち主に見える。しかし、作中で取る彼の行動は「モラトリアム状態にある現状からの逃避」といった面も見受けられ、従来の米澤作品主人公の亜種であると言ってよい。この主人公の父が何も残さず死んでしまったことに対し、依頼人の父は娘に確たるものを残している、という対比が作品に与えた陰影は非常に味わい深い。