東川篤哉『もう誘拐なんてしない』

もう誘拐なんてしない

もう誘拐なんてしない

 2008年1月購入。2年4ヶ月の放置。大学生の樽井翔太郎がバイト中、女子高生が助けを求める。なりゆきでその女子高生を助け、かくまったのだが花園絵里香と名乗る彼女は実はヤクザの娘であった。お目付け役の二人組をふりきってまで逃げてきた理由は、母親の異なる妹に会うためで、その妹は病気で入院中、手術には大金がかかるらしい。そこで絵里香は翔太郎に狂言誘拐を持ちかけ、ヤクザの親分でもある実の父親からその手術費用を頂戴しようと目論むのだった……
 誘拐ものミステリのお約束ともいえる誘拐した側・された側の駆け引きやそこから生じる緊迫感は、狂言誘拐という前提が早い段階で提示されているために薄いものとなっている。代わりに作者の持ち味でもあるユーモアあふれるドタバタ劇が展開され、ひと味違う誘拐ミステリに仕上がっている。また、それのみならず中盤からは殺人事件が絡んできたりとプロットが二転三転していき、読者を飽きさせない。いかにもこの作者らしい良作といえる。