鯨統一郎『ニライカナイの語り部 作家六波羅一輝の推理』

 2008年1月購入。2年3ヶ月の放置。ミステリ作家の六波羅一輝は次回作の取材のために沖縄を訪れた。沖縄に伝わるニライカナイ伝説を扱う心づもりであったのだが、おりしも当地ではテーマパーク<ニライカナイランド>建設をめぐって対立が激化していた。関係者である女性と偶然に知り合った一輝は、この対立から端を発する連続殺人事件に巻き込まれていくのだった。
 遠野を舞台とした前作に続いて、柳田国男民俗学を扱ったミステリとなっている。民俗学で用いられるフィールドワークを通じて拾い上げた事象をもとに何らかの事実を明らかにさせる、というメソッドは本格ミステリの事件の調査で得られた事実をもとに推理し、事実を導き出す、というそれに酷似しており、それゆえ両者はすこぶる相性がよい。本書はその相性の良さを利用した作品であり、そつのない仕上がりとなっている。が、相性の良さに頼っただけの作品ともいえ、テーマの掘り下げやミステリ作品としてのケレン味といった点では物足りない感がある。総じて、鯨クオリティに則った薄味の作品である、ということだ。