近藤史恵『寒椿ゆれる 猿若町捕物帳』

寒椿ゆれる―猿若町捕物帳

寒椿ゆれる―猿若町捕物帳

 2008年11月購入。1年5ヶ月の放置。同心・玉島千蔭を主人公とした捕物帳シリーズの4作目。3短編を収録。猪鍋を売りにしている乃の字屋の主人・龍之介は京で修行をしてきたおかげで、味の方はすこぶる評判がよかった。ところが龍之介の師匠は謎の死を遂げており、その師匠の一人息子は龍之介が殺害したと疑っていた。さらには千蔭たちが店に足を運んでから数日後、乃の字屋で食あたりが発生し、その直後おかみが不審な行動をとる。食あたり事件・師匠殺し・そして猪料理の秘伝の味。これらの真相を千蔭が解き明かす「猪鍋」。
 馴染みの女形である巴之丞が何者かに刺される。聞込みをもとに犯人を探したところ、巴之丞本人には全く見知らぬ女性が浮かび上がる。どうやら彼の仲間や馴染みの遊郭が絡んでいるようで……という「清姫」。
 千蔭のライバルでもある同僚・大石が何者かに陥れられつつある。千蔭は彼の危機を救わんと奔走する「寒椿」。
 巻を重ねて4作目ともなると、登場人物たちのキャラも相当確立されている。各話とも事件単体で見るとあっさりとしているのだが、そこで活躍する各人物たちが非常に目を惹く。今巻では3編をとおして千蔭の見合い話が進行し、婚約にまで至るということになり、かつ、そのイベントが事件にも絡んできており、読者の興味を引き立てていく。シリーズ読者には周知のことであるが、本作には梅が枝という遊女がヒロイン的ポジションに位置しており、彼女と千蔭、そして婚約者であるおろくの関係がどう着地するのかが読みどころである。