桜庭一樹『荒野』

荒野

荒野

 2008年5月購入。1年1ヶ月の放置。第一部、第二部は旧版『荒野の恋』1、2で読了済みのため、実質再読。本書は中学生になりたての少女・山野内荒野が初めて恋を体験し、その恋を育てていく、その過程が描かれている。物語が幕を閉じる十六歳までに体験する荒野の恋は、ほほえましいもので、そこで起きる出来事の色合いは淡いものだ。だが、ここに荒野の父とその再婚相手による濃密な大人の恋愛模様を対比として持ってくることによって、荒野のかわいらしい恋は彩をはっきりしてくることになる。一般文芸進出後の桜庭作品はどちらかというと荒野の父親に見られるような大人の恋愛に軸足が設けられることすることが多いが、本書のような少女の恋をガチで扱うような小説ももっと読んでみたいものだ。