畠中恵『百万の手』

百万の手 (ミステリ・フロンティア)

百万の手 (ミステリ・フロンティア)

 2004年4月購入。5年2ヶ月の放置。過呼吸の発作持ちの少年・音村夏貴。彼の友人である正哉が火事にあい焼死してしまう。夏貴は放火の疑いがあるその火事の原因を探ることになる。物語的にはこの火事を調査することが主な流れとなっている。だが、テーマとなっている部分は事件における犯人探しではない。
 かけがえのない友人であった正哉は死んでしまうが、その直後、彼の携帯に憑依し、夏貴に語りかけてくるようになる。また、女手ひとつで夏貴を育ててきた母に再婚話が持ち上がり、将来の父親候補が現れる。夏貴はこの父親候補のおっさんと健全な関係を築けずにいる。彼の身辺では、親友の喪失と望まざる父親の出現という二つの重大事件が生じるのだ。
 思春期の少年にとって精神的に負担の大きい出来事の出来、ましてや過呼吸の持病を持つ夏貴にとって、携帯に宿る親友の魂という存在は非常に大きいもので、事件を調査する間中、この携帯に多く依存することになる。だが、事件が進むにつれ、彼の心境は大きく変化しやがて義父の存在も受け入れられるようになり、同時に死んだ親友に依存することも減っていく。
 ミステリパートの進展と少年の心の成長を上手く絡めた、よくできた小説である。