田中哲弥『さらば愛しき大久保町』

さらば愛しき大久保町 (ハヤカワ文庫 JA タ 9-5)

さらば愛しき大久保町 (ハヤカワ文庫 JA タ 9-5)

 2007年9月購入。1年4ヶ月の放置。大久保町を舞台としたボーイミーツガール物語というシリーズの基本コンセプトを踏襲しつつも、第三弾ともなると微妙に設定をいじくってきている。前二作が普通(といっても妙に物思いは強かったり物語りお約束で悪運が強かったりしている)の少年がアウェーの地である大久保町に迷い込む形であったが、本書ではホームに暮らす少年が少女を迎えることになっている。それゆえ異邦の地・大久保町を目の当たりにした驚きは少ない。そもそも本書における大久保町はひどいど田舎であるという点を除けばごく普通の日本の一地域で西部劇の世界であったりナチスに支配されているわけではない。代わりにその大久保町を訪れた少女がなぜか日本語でしゃべり、日本的常識が通用する異国の王女ということになっている。舞台の特異性は低く、それゆえシリーズ独自の魅力は前二作には及ばない。とはいえノー天気なラブコメ風味という作者の持ち味はバッチリ発揮されているので、その作風が好きな読者であれば十分に楽しめる作品だ。