有川浩『レインツリーの国』

レインツリーの国

レインツリーの国

 2006年9月購入。2年4ヶ月の放置。作者の代表作「図書館戦争」シリーズに登場した書物を実際に書き上げたもの。主人公の男性が耳の不自由な女と知り合い、やがて付き合うようになっていく話で、極端な言葉狩りが横行している「図書館〜」の作中世界では耳が不自由という設定が問題視されていた。もっとも、設定こそハンディキャップを負った女性を扱っているものの内容そのものには差別的な要素はない。そもそもが作者お得意のベタ甘恋愛話である。そして恋愛というものは男女間における対等な関係こそが重要であり、健常者と障害者であれそこは変わらない。お互いを思いやり、時にぶつかりあう。障害者に対する遠慮や健常者に対する引け目を取り払い、同じポジションでやり取りしていく。そういった恋人像を描くことを作者は目指しており、その姿勢はむしろ差別とはもっとも遠いところにあるともいえよう。
 本書以前の作品が自衛隊や図書隊という架空の武装組織を扱っていたのに対し、本書は特殊な舞台設定を設けていないため、間口は非常に広い。一般スイーツ(笑)層にも十分に受け入れられる類の作品だ。