伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

 2007年11月購入。1年2ヶ月の放置。陰謀によって首相暗殺犯に仕立てられてしまった男の逃亡劇。作者はこれまでも、例えば『死神の精度』で死が間近に迫る者たちを、あるいは『終末のフール』で世界滅亡に立ち会う人々の心情を描いてきた。本書もこれら先行作品に通ずる、個人の力ではいかんともしがたい逆境に立ち向かう者の姿を扱っている。しかも先行作品が短編という形であくまで登場人物たちの断章を取り上げたにすぎないのに対し、本書では一人の男の逃避行を詳細に克明に描いている。その過程で意志の強さ、不屈の精神といったものが強調される。これが物語の主旋律として常に奏でられていく。ともすれば小手先のテクニックに頼ったとも見られる先行作品と比べ、明らかに重厚さを増した仕上がりとなっており、世評の高さはうなずけようというもの。もっとも、持ち味であった軽みはスポイルされつつあり、それに比して重量感は不足気味ともとるこのできる作品だ。作者が捨てたもの、そして代わりに得ようとしたもの、その意図は明白である。が、それがもたらすものがどうなるか、今後を見守っていきたいと思わせる作品だ。