小前亮『エイレーネーの瞳 シンドバッド23世の冒険』

 2008年4月購入。8ヶ月の放置。17世紀のイスラム世界を舞台にした冒険譚。主人公のマレクは「シンドバッド」名を継ぎ、ランプの精を従え、財宝を求めて魔法の絨毯であちこち飛び回っている。あるときマレクのもとにもたらされた宝の地図。それこそマレクの師匠、シンドバッド22世が追い求めていたものであった。マレクは師匠のあとを追うように宝探しの冒険に乗り出したのだった。
 マレクの冒険は師匠のたどり着けなかった財宝を求めるものであり、財宝にたどり着くことがすなわち師匠を超えることを意味する。したがって本書で語られる冒険は単純に財宝を手に入れる、という成功のみならず師匠を超えることすなわちマレク一個人の成長を意味することとなっている。同時に、マレクの行動派冒険のさなか行方の知れなくなった師匠の足跡をたどる旅という意味も持ち合わせており、一つの冒険譚に二重三重の意味を持たせて非常に意義深いものとなっている。
 もっとも、読んでいて受ける印象だが、冒険自体は意外と平板でメリハリ、あるいはけれんみといったものが不足している。魅力的な舞台設定であるだけに残念だ。