ドナルド・キーン『明治天皇』1〜4

明治天皇(一) (新潮文庫)

明治天皇(一) (新潮文庫)

明治天皇(二) (新潮文庫)

明治天皇(二) (新潮文庫)

明治天皇(三) (新潮文庫)

明治天皇(三) (新潮文庫)

明治天皇(四) (新潮文庫)

明治天皇(四) (新潮文庫)

 2007年2月〜4月購入。1年8〜10ヶ月の放置。明治前後の時代を描いた作品といえば、小説分野においては司馬遼太郎作品が最も馴染み深く、また楽しめる作品であろう。著作も多彩で、土方歳三の『燃えよ剣』、坂本竜馬の『竜馬が行く』、西南戦争における西郷隆盛の『翔ぶが如く』、日露戦争における秋山好古・実之兄弟や同時期の正岡子規の『坂の上の雲』、大村益次郎の『花神』、高杉晋作の『世に住む日々』、河井継之助の『峠』……など枚挙に暇がない。これら司馬作品は幕末〜明治期という動乱期をそれぞれ活躍した人物にスポットをあて、いわば列伝体として多角的に時代を描き出しているわけだが、キーンの本書は(小説、ノンフィクションの差異があるとはいえ)明治天皇という一人物の周辺のみにカメラを固定して時代を分析している。
 視点が常に一定であるために時代の流れは非常につかみやすく、また、司馬が主役として取り上げていない、物語の題材としては色彩の乏しい人物を詳細に掘り下げた力作でもある。幕末明治期に興味ある方には一読の価値あり。
 なお、視点の統一ということではこの作者には『日本文学の歴史』(全18巻)という作品がある。(asin:412403220X文学史というとたいていは上代、中世、近世、近現代といったように時代ごとに分けられ、執筆者も各時代のプロパーによって分担されているもので、必然、その執筆者のバイアスのかかった文学史観がそれぞれの時代時代に表れてしまう。ところが本書はキーン一個人の視点・史観によって統一された日本文学の姿が著されている。すべての時代を網羅したそれなりに詳細な文学史というのは貴重であり、これまた日本文学史に興味のある方には一読をお勧めしたい。