マイクル・ムアコック『永遠の戦士エルリック2 この世の彼方の海』

 2006年5月購入。2年半の放置。旧版の『この世の彼方の海』と『<夢見る都>』の二作をまとめて収録。作者ムアコックの作り上げた<多元宇宙>世界のはざまにある海に舞台とした『この世の彼方の海』では、ホークムーン、エレコーゼ、コルムという別シリーズの主人公*1たちと共闘する豪華な場面が見られる。永遠の戦士シリーズの世界観を堪能できる作品といえよう。
 続く『<夢見る都>』は三本の短編仕立てで、いずれも魔剣ストームブリンガーとともに活きていかざるをえないエルリックの悲劇の物語となっている。その一作目、「<夢見る都>」で宿敵イイルクーンとの決着及び最愛の恋人サイモリルとの間に訪れた最悪の結末が描かれ、以降「神々の笑うとき」「歌う城砦」の二編ではエルリックの言動に、その結末がもたらした影響が色濃く見て取れるようになっている。自虐的にして虚無的、決して明るいとは言いがたいエルリックの性格がここにきて決定的に洗練強調され、そしてその快活とは一切無縁の陰鬱さが本シリーズにおけるなんともいえない魅力となっている。
 本書一冊のボリュームはかなりのものだが各エピソードそのものは短く、非常に読みやすい。ダークヒーロー・エルリックの魅力、そしてムアコック宇宙を堪能できるという意味で、シリーズの中でもお得な一冊といえる。

*1:残念ながら、魔都ロポンギルスで魔術師イスルギーとともに活躍した老騎士は登場しない。