池上永一『シャングリ・ラ』上下

シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

シャングリ・ラ 上 (角川文庫)

シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

シャングリ・ラ 下 (角川文庫)

 2008年10月購入。1ヶ月の放置。これは素晴らしい。SF・伝奇・神話といった物語を形成するガジェットを惜しみなく投入し「沖縄」を描いたのが『レキオス』だとするならば、同じ方法論をより洗練・先鋭化して「東京」及び「日本」を描いてみせたのが本書。炭素経済という概念のもとに形成された近未来の世界観も秀逸で、単なる設定にとどまることなく物語を推し進めていく重大な要素となっている。そしてそこで繰り広げられる政府とゲリラの派手なバトルは嫌が応にも読み手のテンションを高揚させる。活発な少女や母性愛といった池上が好んで用いるモチーフを健在で、しかもそのモチーフはなんの衒いもなくふんだんに提示され、有無を言わさず読者を感動の渦に引きずりこんでいく。
 ということで本書はまごうことなき池上SFの傑作。これよりも周囲の評価は高い(と思われる)最新刊『テンペスト』も早いとこ読んでみたいです。