樋口有介『月への梯子』

月への梯子

月への梯子

 主人公のボクさん知能障害を抱えた四十代独身男性で、アパートの大家を営んでいる。ある時屋根の修理をしようと梯子を上っていたところ、入居者の女性の死体を発見してしまう。そのショックで梯子から墜落し、入院することに。無事退院したものの、アパートに戻ると、入居者全員が行方をくらませていた。転落事故の影響か、頭の働きがよくなったボクさんはいなくなった住人と、殺人事件の犯人を捜し始める。同時に、事故前には気づかなかった周囲の人たちの心の持ちようにも気づくようにもなった……
 樋口版『アルジャーノンに花束を』ともいうべき作品で、展開及び結末は元ネタからある程度想定されるものだ。にもかかわらず、読者の興味を決して失わせることなく読ませる作者の筆致はさすが。事故後のボクさんの女性の扱い方が急激に達者なものになってるあたりは、いかにも樋口作品といった趣で、これを単純に「ねーよwww」と笑殺するよりもむしろ「キタコレ!」と歓迎するのがファンの読み方でしょう。テーマから必然的に生じるなんともいえない悲哀に身をゆだねて読み進めていくべし。