宇月原晴明『天王船』

天王船 (中公文庫)

天王船 (中公文庫)

 2006年11月購入。1年10ヶ月の放置。松永久秀斎藤道三を中心に描いた異色の戦国伝奇絵巻『黎明に叛くもの』の外伝的位置づけとなる短編を四編収録。後の松永久秀斎藤道三の幼年期を描いた「隠岐黒」、若き日の織田信長と久秀のかすかな邂逅「天王船」、本能寺の変直後の豊臣秀吉小早川隆景ありさまを描いた「神器導く」、そして本編よりはるかさかのぼったモンゴル帝国全盛期に起きた物語の源流となる前日譚「波山の街――『東方見聞録』異聞」。
 全四編あわせて文庫にして200ページに満たない短さであるのだが、ベースとなる歴史的事象に独自の伝奇的要素をぶち込み、重厚感のある筆致でまとめ上げた物語は、作品に対して作者自身が明確なビジョンを持ち合わせているのだろう、いずれも非常に濃密さでもって仕上がっている。作者はこと伝奇小説というジャンルに関しては当代一の書き手だ。