松尾由美『人くい鬼モーリス』

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)

人くい鬼モーリス (ミステリーYA!)

 2008年6月購入。3ヶ月の放置。村尾信乃は家庭教師のアルバイトのために避暑地の別荘を訪れた。そこで教え子となった芽理沙という少女から不思議な生き物を見せられる。大人には見えない、死んだ直後の動物の魂を食べる、モーリスた名づけられた生き物を。その直後に発生した、女性記者の転落と死亡、そして死体の消失。これは単なる事故なのか、そして消えた死体はモーリスが食べてしまったせいなのか……
 きわめてまっとうなジュブナイルミステリで、モーリスの設定がジュブナイル要素、ミステリ要素双方に対して有効に活用されている。子供にしか見えないモーリスが見ることが出来なくなれば、その事実がそのまま少女の成長を意味することになるし、事件それ自体に対してもモーリスの特徴がそのままロジックに運用されている。松尾由美は非現実的な道具立てを用いてミステリを展開させることを好む作家であるが、本書ではその個性が十分に活きた良作であるといえる。