機本伸司『メシアの処方箋』

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

メシアの処方箋 (ハルキ文庫)

 2007年5月購入。1年4ヶ月の放置。ヒマラヤで発見された古代の「方舟」。中にはたくさんの木簡が積まれていた。それを解読していくと、どうやら「救世主」の設計図であるらしいことが判明、ロータスこと外園実たちは「救世主」の製作に乗り出すのだった。
 扱っているテーマは壮大で、また、倫理上の問題が付きまとってくるため、物語をまとめ上げるには非常に困難に思われるのだが、作者はすべては知的欲求最優先という価値観のもと倫理問題を棚上げし、ストーリー進行を円滑するようにしている。したがって、テーマのわりにはコンパクトで読みやすい作品に仕上がっている。ただしここの手法は創作方としては安易にすぎるであろう。加えて、語り手が常にロータスという知的好奇心の権化のような男の言いなりで、キチガイの振りをして会社を辞めたり、総会屋を脅したり、見知らぬ女と結婚したりと自分の意思がまるっきり無視されたままであるのにさほど抵抗をしていない点も気になる。こちらも、そういう人物であるほうがストーリーを転がしていく上で都合がよいのは明らかで、登場人物設定が安易であろう。
 以上、極度のご都合主義が気にならないのであれば、それなりに楽しめる作品といえる。