東川篤哉『交換殺人には向かない夜』

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

交換殺人には向かない夜 (カッパノベルス)

 2005年9月購入。3年の放置。タイトルにあるように、本書は交換殺人を扱っている。そしてそのことは冒頭の犯人たちによる交換殺人計画を持ちかける会話によってより強く印象付けられる。ストーリーは三組の男女ペアそれぞれのパートに分けられて進行し、探偵役は事件の早い段階で交換殺人の可能性を疑う。このように、交換殺人そのものの存在を読者に対してきっちりと明示されながらも、最後まで事件の全体像、そして交換殺人の具体的な計画そのものは五里霧中のままである。作者特有の登場人物たちによるユーモラスなやりとりで軽快に進んでいくのに、肝心の目的地の全景が最後まで見えてこない。この構造は見事であり、かつ、解決に用いられるロジックのために敷かれた伏線はこの作者らしいユーモラスなもので、作者の持ち味も活きた良作だ。