高井忍『漂流巌流島』

漂流巌流島 (ミステリ・フロンティア)

漂流巌流島 (ミステリ・フロンティア)

 2008年7月購入。2ヶ月の放置。「日本史上における有名な事件をメジャーどころとは異なる視点で取り上げる」というコンセプトのもとで作られる(B級)映画のプロットを製作していくうちに、歴史的事件の意外な真相が見えてくる――という設定下で繰り広げられる歴史ミステリで、扱われる事件は宮本武蔵佐々木小次郎による巌流島での決闘、赤穂浪士の討ち入り、新撰組による池田屋事件、荒木又右衛門が活躍する鍵屋ノ辻の仇討ちの四つだ。
 各短編とも、上記コンセプトが存在しているため、まずはメジャーどころの切り口となっている通説が提示され、その上で別の切り口を探るべく史料を集め、読み解いていくという構造となっている。したがって通常のミステリにおけるお約束である「謎の提示とその解決」というプロセスに謎(問題点)の発掘という前段階が用意されることとなる。この前段階が史料の読み解きになるため、歴史に興味のない読者には退屈かもしれない。しかしその後に提示される謎とその解決は奇抜なものでなかなか楽しめる。また、この手の歴史ミステリにおいては歴史の新解釈があまりに突飛であるため納得しがたいものになりがちだが、事件の新解釈による映画の撮影という設定が用意されているため奇抜な解釈もさほど違和感なく受け入れることが可能だ。