松尾由美『ハートブレイク・レストラン』

ハートブレイク・レストラン (光文社文庫)

ハートブレイク・レストラン (光文社文庫)

 2008年7月購入。2ヶ月の放置。フリーライターの寺坂真以はどことなく陰気で、客入りもさほどよろしくないファミリーレストランの常連客である。ある時彼女は記事に取り上げようとしていたちょっとした事件に関してどう解決をつけるか頭を悩ましていたのだが、隣に座る同じ常連客と思われるハルお婆ちゃんがその事件の合理的解決を示して見せた。以後、ハルお婆ちゃんは真以の耳に届いてきた事件の数々を見事に解決して見せるのだった。
 収録された六つの短編はそれぞれ魅力的な謎の提示とその合理的な解決という点においてはまずまず楽しむことの出来に仕上がっている。また、「現実的な設定の中に非現実的な要素を持ち込む」というこの作者の好んで用いる設定も登場し、物語そのものに特有のアクセントをつけている。
 作品そのものの印象は、お婆ちゃんのキャラクターに代表されるように、全体的に暖かみのあるものだ。ある程度予見されるであろうラストをいい意味ですかしてみせているのが、その印象に拍車をかけている。
 非現実的設定を用いているとはいえ、その設定自体は『安楽椅子探偵アーチー』ほど突飛すぎるものではないので、間口は広く、安心して読める作品だ。