マイクル・ムアコック『永遠の戦士エルリック1 メルニボネの皇子』

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

 2006年3月購入。2年5ヶ月の放置。<竜の島>と称されるメルニボネの魔術皇帝、エルリックと魔剣ストームブリンガーの数奇な運命を描いた<エルリック・サーガ>シリーズの2巻を収録。
 主人公のエルリックは強大な魔力の持ち主でありながら、虚弱体質の白子であり、鬱々とした気性の持ち主だ。そのエルリックが従兄弟のイイルクーンと対立し、魔剣ストームブリンガーとの出会いを描いた「メルニボネの皇子」では、神々や精霊の支配する世界とエルリック自身が支配する国の側近たちのいる宮廷、という二つの世界が並列して描かれている。今巻における世界とはエルリックを取り巻く環境のみを表しており、その結果、きわめて大きな遠景ときわめて小さな近景という極端な世界が読者に提示されることになる。
 続く「真珠の砦」では、クォルツァザードというところへと現実世界における空間的広がりを見せるものの、そこからさらに夢の世界へと舞台を移すことになる。読者に示されるのは通常の外的世界ではなく内面世界ともいうべきもので、やはりここでも通常の空間的認識は重要視されない。
 このような世界観の提示はむろん、根底にある平行世界の考え方に拠るのだろう。エルリックを一はじめとする登場人物に感情移入して読むのもよいだろうが、ムアコックの作り出す世界のあり方に注目するのもありだろう。