ボリス・アクーニン『アキレス将軍暗殺事件』

アキレス将軍暗殺事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

アキレス将軍暗殺事件 (ファンドーリンの捜査ファイル)

 2007年3月購入。1年5ヶ月の放置。本シリーズの主人公・ファンドーリンはモスクワ警察特捜部に所属するオシャレなイケメンで、推理力に優れ、身体能力も高い。かつ、紳士的で性格もよく、勇気あふれ行動力もある。さらには一度も賭けに負けたことがないという強運の持ち主だ。唯一女性にはめっぽ弱いという欠点があるが、それはご愛嬌。あふれんばかりのチート設定を持ち合わせた青年だ。
 そのチート青年が本書では苦戦する。国民的英雄であるソーボレフ将軍が暗殺され、その犯人を探すことになるのだが、捜査は常に後手へとまわされてしまう。しかも、ようやくヒントをつかんだと思うと国家の介入によって捜査は中断を余儀なくされてしまう。前半ではこのように捜査に苦戦するさまが描かれる。
 後半は一転、チート青年ファンドーリンを苦戦に追いやった暗殺の実行犯の生い立ちが描かれる。本書の見所は暗殺犯とファンドーリンの対決であるのはいうまでもない。その対決を魅力的なものにするために、前半で主人公の苦戦=相手がいかに強敵であるかを描写し、後半でその強敵の人間的造形を立体感ある存在として丹念に描いている。結果、その見所は非常に読み応えのあるものとなっている。