歌野晶午『ハッピーエンドにさよならを』

ハッピーエンドにさよならを

ハッピーエンドにさよならを

 2007年9月購入。11ヶ月の放置。古くは前世紀、最近のものでは昨年という幅広い期間で発表された短編を年代順にこだわらず並べた短編集。ノンシリーズものだが、タイトルにあるがごとくハッピーエンドに至らないブラックなオチになっている作品が多い。各短編、短いなかに歌野ミステリらしい仕掛けが施されており、なかなか楽しませてくれる。
 また、テーマ、とまではいえないまでも社会問題を作品の材料に用いていることが多いのも特徴といえる。*1それはゆがんだ親子関係であったり、いじめ問題であったり、ジェンダーを扱ったものであったりとさまざまではあるが、それらの社会問題が抱える闇が作品に陰影を与えるのにわずかではあるが寄与している。これらの問題そのものに焦点を当ててしまうと作品そのものの性格は大きく変化してしまう。いうまでもなく、歌野晶午のジャンル作家的な立ち位置は本格ミステリであり、その立ち位置を揺るがすほど大きくはこれらの社会問題を取り上げていないのだ。しかし、「本格ミステリはあくまで謎とその解明にいたる論理こそが重要なのだから、作中に社会問題など盛り込まなくてもかまわない。人間が書けてなくたってよいのだ」という開き直りとは程遠く、ジャンル内部の奥深くに引きこもっているような作品を書いているわけでもない。このあたりのバランスのよさは、新本格第一世代といわれる作家の中でも屈指であろう。

*1:これは本書に限ったことでもなく、近年の秀作『密室殺人ゲーム王手飛車取り』でもゲーム感覚で犯罪・殺人を行う現代の風潮・社会問題を扱っている。