貫井徳郎『追憶のかけら』

追憶のかけら

追憶のかけら

 2004年7月購入。3年11ヶ月の放置。語り手は大学講師の麻生。酔った拍子にしてしまった浮気が原因で別居中だった妻が事故死してしまい、男手一人では何かと苦労するだろうと娘を舅に取られてしまう。しかもこの舅、麻生の勤務する大学の教授で彼にとっては恩師にあたる。娘婿としても、教え子としても信用を失った麻生のもとに自殺したマイナー作家の未発表手記が届けられる。その作家の自殺の原因ともいえる出来事が記されている手記を分析した論文を発表し、ささやかなりとも学会で注目された麻生。舅の見る目も変わってくるだろうと思われた矢先、実は手記自体が偽物であるらしいことが判明する。どうやら麻生は何者かに陥れられたようだ……
 以上のような主人公麻生の境遇に加えて作中に挿入される自殺作家の手記も暗い内容で、作品全編を鬱々たる空気が包み、悪意のありかが明らかにされるラストまで終始、オワタ感満載で物語りは進んでいく。その悪意と表裏をなす愛の描写は微々たるもので、陰鬱とした調子が作品世界を支配しており、いかにも貫井徳郎らしい話に仕上がっている。