陳舜臣『中国畸人伝』

中国畸人伝 (中公文庫)

中国畸人伝 (中公文庫)

 2005年10月購入。2年8ヶ月の放置。一般的に歴史小説においては歴史の本流にある英雄たちにスポットが当てられることが多い。本書で扱われている時代でいえば三国時代曹操劉備孫権、唐代であれば李世民、そして彼らを主役とした物語が『三国志演義』であったり『隋唐演義』だったりする。本書の作者である陳舜臣ならば『秘本 三国志』や力作『小説 十八史略』などがある。
 もちろん、歴史小説的本流にいる人物意外にも魅力的な人物は存在するわけで、本書はそのような本流から外れた「畸人」に注目している。
 乱世を乗り切るために狂人を装った竹林七賢の一人・阮籍孔子の子孫で曹操に敵対した口説の徒・孔融。やはり竹林七賢の一人で、老いるにしたがって吝嗇ぶりが目立つようになった王戎。『抱朴子』『神仙伝』の作者葛洪。梁の武帝に使えた文人・陶弘景。隋代の音楽名人・万宝常。唐代の詩人で「葡萄美酒 夜光杯」で知られる王翰。同じく唐代詩人で「江南春」で知られる杜牧。以上八人、「畸人」というだけあって各々面白い逸話をもっており彼らの生き様それ自体が非常に魅力的だ。そしてそれらを短くまとめ、各人の生涯を過不足なく伝える作品に仕立てた陳舜臣の筆力も素晴らしい。歴史の本流ではなく支流の魅力を教えてくれる好短編集だ。