石持浅海『賢者の贈り物』

賢者の贈り物

賢者の贈り物

 2008年3月購入。2ヶ月の放置。本格ミステリにおいて探偵役が推理を展開し、解決に至る過程にはいくつかのパターンがある。提示された材料を組み合わせ真相を導き出すパズラー型、提示された材料を視点を変えて眺めることによって真相を導くもの、そして提示された材料から何らかのヒントを抽出し真相を導き出すいわゆる「九マイル」型などだ。石持作品では『扉は閉ざされたまま』『君の望む死に方』のシリーズや『セリヌンティウスの舟』や『Rのつく月には気をつけよう』など、この「九マイル」型の作品が多い。この手の作品は推理の材料が非常に少なく、にもかかわらずその少ない材料からヒントを抽出し、スタート地点からはおよそ想像しがたい真相にたどり着くことになることが多い。場合によっては緻密さ厳密さに欠け、推理というよりも想像・妄想の類に近いケースにもなりうるが、その思考法自体が魅力となりうる。
 本書もこのタイプの作風が用いられており、おとぎ話やO・ヘンリー作品といった元ネタをベースに敷いて物語を展開している。何らかの問題・事件が発生、推理、解決(?)*1というシンプルなプロセスで書かれており、一作一作のまとまりはいいものの、総体的に小粒な印象だ。各作品は元ネタがあること以外につながりはないものの、唯一「磯風」なる女性(これも同一人物ではない)が登場するのが共通フォーマットとして存在する。むろん彼女は「イソップ」のもじりであろう。

*1:結論のはっきりしないリドルストーリーもあるので保留の意味で「(?)」をつけておく。