伊坂幸太郎『終末のフール』

終末のフール

終末のフール

 小惑星が地球に衝突することが判明し、人々はその衝突するまでしか生きることができなくなった――というシチュエーションのもと、残された日々を生きる者たちを描いた短編8編。死が目前に迫った者たちの生き様を描く短編集、という点では『死神の精度』と似たような作品ではある。しかし『死神〜』においては自らの死を認識していない者を扱っているのに対し、本書ではほとんどすべての人々が自身の生のタイムリミットを承知している。また、『死神〜』では死に行く者を死神が観察する、という客観的な視点が取られているのだが、本書では死に行く者その人の主観が語られる。これらの意味において、『死神の精度』と『終末のフール』は表裏の関係にある作品といえる。
 本書そのものの内容で特徴的なのは、人類の滅亡が確定的となったことにより自暴自棄になる、という段階を通り過ぎてある種諦念のようなものにとらわれた人々がそれでも滅亡のその時まで生きていく姿を描いていることであろう。なぜ生きるのか、あるいはなぜ殺すのか、なぜこの期に及んで子どもを産むのか、なぜこれまでどおり普通に生きていくのか……さまざまな生の断章が語られていく。個人的に一番よかったのは「鋼鉄のウール」のキックボクサーの生き様だ。