三雲岳斗『聖遺の天使』

聖遺の天使

聖遺の天使

 2003年10月購入。4年半の放置。舞台はルネサンス期、イタリア。聖遺物と噂される香炉を有するアッラマーニが自身の屋敷で奇妙な死を遂げる。城壁で磔刑に処されたかのような死に様、そしてそこで目撃された天使のような姿、さらには聖遺物の消失……これらの謎をレオナルド・ダ・ヴィンチが解き明かす。
 基本的に用いられているトリックは現代的視点からみるとたいそうなものではない。しかし、神学が主流であり近代科学の思想が未だ行き渡らない時代を舞台にすることで、これらのトリック及び真相の意味は大きく変わってくる。
 そもそも視点人物となるチェチリアは聡明な女性である。しかし、その聡明さは近代科学の知識を有さない、神学世界に生きる人物としての聡明さにとどまる。したがって、作中で起きる奇妙な出来事すべてに神の意思を感じざるを得ず、探偵役にはなりえない。しかし、探偵役のレオナルド・ダ・ヴィンチこそはこの中世的常識の枷から逃れ、近代科学の思想でもって謎を解き明かしていく。
 本書の謎とその解明の構図はこの時代、この探偵役であってこそ成立する。歴史ミステリとしては非常によくできているといえよう。