二冊まとめて。日本型伝奇大河ストーリーの源流のひとつ、
曲亭馬琴『
南総里見八犬伝』を伝奇小説の大家・
山田風太郎が手がけた、ということで期待度の非常に高い作品だが、山風の持ち味ともいえる奇想溢れる奔放さがうかがえるかというと、さほどではない。むろん、元ネタが名作である以上、山風の手腕であれば駄作となるはずはない。しかし、ここで用いた作者の手法は執筆当事の馬琴とその馬琴が手がけた
八犬伝物語という作中の内と外、虚実の二つの世界が展開される、というものである。読者はこの二つの世界が如何に絡み合うか、という点に着目してということになるであろう。しかし、その絡みは濃密さに欠け、単純に二つの世界の物語が交互に、平行に展開されるに留まってしまっているのだ。むろん、
八犬伝物語の外にある実の世界での出来事に山風らしい重要なテーマは含まれており、それはそれで素晴らしいものである。読み応えもある。とはいえこの作者の書く作品としては読者の求めるハードルをクリアしたとはいいがたい。