松尾由美『安楽椅子探偵アーチー オランダ水牛の謎』

 2006年10月購入。1年5ヶ月の放置。人間と会話が出来、抜群の推理力を誇る安楽椅子「アーチー」が探偵役をつとめるシリーズ第2弾。収録された短編5つのタイトルはそれぞれ国名がついており、偉大なる先達のひそみに倣う形式となっている。安楽椅子の持ち主・及川衛が見つけてきた忘れ物の白い封筒に入っていた木の葉と謎のメモ書きを巡る話「オランダ水牛の謎」、衛のガールフレンドが預かることのなった猫と飼い主の関係「エジプト猫の謎」、風変わりな少女がモデルをつとめた彫刻を壊した犯人を捜す「イギリス雨傘の謎」、インド料理屋で遭遇した客の、おかしな振る舞い「インド更紗の謎」、偶然知り合った翻訳家と再会する約束をしたものの、約束の日には翻訳家は行方不明になっていたことが判明する「アメリカ珈琲の謎」。
 基本的には衛が持ち帰った謎を、アーチーが文字通り「安楽椅子」探偵として推理、解決するという構造をとっており、安楽椅子探偵ものというジャンルとして各短編ともまずまず楽しめる出来となっている。しかし本書の特徴はそのようなジャンルそのものの出来云々ではなく、「エジプト猫の謎」で見せる淡い恋心と嫉妬の芽生えといった微笑ましい要素や、「アメリカ珈琲の謎」でのアーチーの推理に頼るだけでなく、自ら謎を解こうと行動する自立心を見せるなど、衛という少年の成長を綴る話として成立している点にある。この場合探偵役のアーチーはミステリというジャンル内におけるポジションとは別に、衛を見守る保護者や教師役といった役割を果たしている。一少年の成長小説として、続きを追いかけていきたくなるシリーズだ。