北森鴻『暁の密使』

暁の密使

暁の密使

 2005年12月購入。2年2ヶ月の放置。日露戦争前夜、極東での緊張感が高まる時代に仏道のためチベット入りを目指した能海寛を主人公にした話。熱心な仏教徒であり、身を賭してチベットを目指す能海は、現地に住むイギリス人に日本の密使ではないかと疑われ、危機に陥ることに。ベースは実在の人物を扱った歴史小説なのだが、冒険・スパイ小説の色合いが濃厚な作品。また、植民地主義がまかり通り、極東におけるパワーゲームを制するべく動くヨーロッパの列強とそれに対抗する日本という情勢と、あくまで国際政治とは無縁で仏教を重んずる一人の男の生き方という二点が作品を構成する軸となっているのだが、この二つの絡みあい・対比が物語に上手く溶け込んでおり一作品としての完成度もなかなかのものとなっている。