島田荘司『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』

 2004年12月購入。3年2ヶ月の放置。「占星術殺人事件」直後、御手洗潔がまだ日本にいた頃の話。彼の元を訪れた老婦人がもたらしたロシア・ロマノフ王朝時代の宝物に関する逸話から大事件のにおいをかぎ取った御手洗は、さっそく宝物の持ち主を訪れる。そこで出会った少女との交流が本物語の主幹として語られる。さらに島田流の奇想溢れるミステリ的味付けがそこに加わり、非常に感動的な作品として仕上がっている。
 島田荘司といえば本格ミステリのビッグネームとして周囲には認知されているが、そもそも緻密な伏線や精巧な論理で見せるタイプの作家ではなく、むしろそういったところとは正反対の、ストーリーそのものを盛り上げるためロジックの脇の甘さを豪腕でねじ伏せるイメージのほうが強い。これすなわち、本質的にジャンルの枠とは無縁の純粋に魅力的な作品をものす一作家だということを意味する。もちろん、本格ミステリの重要な要素であるトリックとそれを生み出す奇想という点では突出しており、その文脈から本格というジャンル作家として捉える向きも強いだろう。しかし、その「奇想」は単に本格ミステリとしての演出のみならず、一物語を盛り上げる要素として機能している。そうである以上、単にジャンル作家として認識してしまうわけにはいかないであろう。*1本書はその認識を強くしてくれる、本格ミステリ云々を抜きに純粋に楽しめる作品である。

*1:むろん、作者自身の認識とはまったく異なる次元での話である。