近藤史恵『ふたつめの月』

ふたつめの月

ふたつめの月

 2007年5月購入。9ヶ月の放置。『賢者はベンチで思索する』の続編に当たる本書は中編3編を収録。派遣社員から正社員になった久里子は直後に首になってしまう。この不自然な仕打ちの裏「たったひとつの後悔」、恋人とは呼べぬまでもいい関係にある男・弓田から不意に紹介された妹分的な少女。その少女・明日香は久里子に対して非常に攻撃的であった……「パレードがやってくる」、久里子に並ぶ本書のもう一人の主人公・赤坂老人の取る奇妙な行動の真相「ふたつめの月」。いずれも作者の得意とする人間の意識せずとも生じてしまう悪意・嫉妬・利己心といった負の感情を描いているのだが、話の落としどころは比較的ハッピーエンドよりであるためテーマの割りに後味の悪さがつきまとうことはない。前作に引き続き、シリーズキャラクターの身辺に変化も見られそのあたりもシリーズ読者には楽しみどころのひとつ。難をいえば、久里子と赤坂老人を結びつける役割であった犬の影が薄いのが残念ではある。