森博嗣『少し変わった子あります』

少し変わった子あります

少し変わった子あります

 2006年8月購入。1年5ヶ月の放置。名前もわからない、場所も行くたびに変わるという不思議な店で行われる不思議なサービス。それは、食事を共にする女性を用意してくれること。といっても性的なサービスではなく、あくまで食事をし、その間の会話を楽しむだけのものだ。本書はそのような話題を出した同僚が失踪したのをきっかけに、店に通うことになる男、そしてそこでのみ顔を会わせることになるさまざまな女性たちの話だ。
 この設定を例えば北村薫が用いたのならば、女性たち、及び彼女たちと共に過ごす空間を情緒たっぷりに描いてみせることだろう。しかし、森博嗣はそういった趣を一切排除し、淡々と無機的に筆を運んでいく。作者の色がはっきりと打ち出されている作品で森博嗣の作り出す空気が好きな読者は純粋に楽しむことができるであろう。逆に情感を求める向きの読み手には非常につらい作品だ。
 しかし本書は森作品であってもミステリとしての演出が用いられているわけではない点には注意が必要だ。このあたりを望んでいくと最終的に肩透かしとなる。ミステリレベルで必要な要素もここではそぎ落とされている。